PSpice 入門−第 6 章

6. バイポーラトランジスタによる基本増幅回路

 ここではバイポーラトランジスタを用いた基本増幅回路についての例題を解き,シミュレーションを行うことでその答えを検証してみます。5 章では抵抗とコンデンサしか用いませんでしたが,ここからはトランジスタを用いるため,電子回路っぽくなります。というか電子回路です。

6.1 エミッタ接地回路

図 6.1 エミッタ接地回路


図 6.2 エミッタ接地回路(記号付き)

 図 6.1 の回路において,コレクタ電圧 VC を求めることを考えます。

 図 6.1 の RL は付加抵抗といい,トランジスタによって増幅された電圧(VC)を取り出すために必要となります。これがなければ, VC = VCC となってしまうからです。RE はエミッタ抵抗と呼ばれ,これがなくても増幅は可能です。一般的に,トランジスタは温度によって特性が大きく変わる性質がありますが,エミッタ抵抗を入れることによって周囲の温度によらず比較的安定した動作を示すようになります。

6.1.1 理論

 それではここから本題に入ります。図 6.1 のままでは考えにくいので,図 6.2 のように各部の電圧と電流を記号で表します。

 エミッタ電流 IE は,

IE = (VB - VBE) / RE  … (6.1)
によって表せます。

 付加抵抗 RL にかかる電圧 VRL は,

VRL = IC・RL  … (6.2)
となります。

 ここで,コレクタ電流 IC とエミッタ電流 IE には,

IC ≒ IE  … (6.3)
という関係があるので,この式を式 (6.2) に代入すると,
VRL = {(VB - VBE) / RE}・RL  … (6.4)
となります。

 そして,コレクタ電圧 VC は,

VC = VCC - VRL  … (6.5)
で表されるため,この式に式 (6.4) を代入すると,
VC = VCC - {(VB - VBE) / RE}・RL  … (6.6)
となり,この式によってコレクタ電圧 VC を求めることができます。

 実際に数値計算を行いましょう。ここでは,VCC = 12 V,RE = 1 kΩ,RL = 2 kΩ,ベース電圧 VB = 2 V とします。なおこのトランジスタは, VBE = 0.6 V とします。このときのコレクタ電圧 VC を求めるために式 (6.5)に各値を代入すると,

VC = 9.2 V

となりました。

6.1.2 シミュレーション

 上記の結果を確かめるために,シミュレーションを行います。


図 6.3 エミッタ接地回路(シミュレーション回路図)

 では図 6.1 を PSpice 上で図 6.3 のように描いてみます。今回はコレクタ電圧を求めたいので,電圧測定プローブ(マーカー)を図 6.3 の位置に配置してください。回路図を描くための準備(プロジェクトの作成など)は 付録 A 章 を参照してください。

 本章のシミュレーションでは NPN 型小信号汎用トランジスタ 2SC1815 を用います。 PSpice のモデル名は QC1815 となっており,この素子はトラ技ライブラリに格納されています。トラ技ライブラリの組み込み方は付録 D 章を参照してください。

 この QC1815 は,VCC = 12 V のとき hFE ≒ 180 になっていました。この hFE の値を任意の値に変更することはできません。なぜならそういう素子モデルとしてモデリングされているからです。

 どうしても hFE ≒ 100 のトランジスタを用いてシミュレーションを行いたいという場合は,素子のライブラリを追加する画面(付録 第 A 章 A.2 節を参照)で breakout.olb というライブラリ(c:\Program Files\OrcadLite\Capture\Library\PSpice に格納されている)を追加し,そのライブラリにある QbreakN という素子を利用してください。ただし,この素子は VBE ≒ 0.9 V となってしまいます。

 シミュレーションの解析モードですが,ここでは電源電圧などを変化させるようなことは行わないので過渡解析を行います。過渡解析のシミュレーションプロファイルの作成の仕方は,4 章 中学生レベルの回路の 4.3 節をご覧になってください。

 シミュレーション結果を図 6.4 に示します。V の値を Toggle Cursor(トグルカーソル)を用いて読むと,9.2671 V となっています。計算値とほぼ同じ値になりました。


図 6.4 エミッタ接地回路のシミュレーション結果


6.2 固定バイアス回路

図 6.5 固定バイアス回路


図 6.6 固定バイアス回路(記号付き)

 図6.5 の回路において,コレクタ電圧 VC = VCC / 2 となるように RB を決めます。

 この回路は固定バイアス回路と呼ばれます。「バイアスとは?」と説明したいところですが,面倒くさいのでそれは教科書や参考書に譲ります。よく分からない人は,交流信号を全体的に少し高い電圧(電流)に上げるための直流電圧(電流)と考えてもらえばいいです。シミュレーション結果を見れば意味が分かると思います。ではなぜバイアスをかける必要があるのかというと,それも教科書や参考書に譲りますが,まぁ簡単に言うと信号(交流電圧・電流)を正しくきちんと増幅させるためです。また,バイアスの意味が分かれば,回路の入出力部に存在するコンデンサの働きも分かると思います。

6.2.1 理論

 図 6.5 のように各部の電圧と電流を記号で表します。

 コレクタ電圧 VC は,

VC = VCC - VRL = VCC - ICRL  … (6.7)
と表されます。ここで,コレクタ電流 IC と,ベース電流 IB の関係は,
IC = hFEIB  … (6.8)
となるため,式 (6.7) は以下のようになります。
VC = VCC - hFEIBRL  … (6.9)

 ところで,電源電圧 VCC は,

VCC = VRB + VBE = IBRB + VBE  … (6.10)
2010.6.22 訂正: VBE の符号間違い。ご指摘ありがとうございました。
と表すことができ,この式をベース電流 IB について変形すると,
IB = (VCC - VBE) / RB  … (6.11)
となります。

 そこで,式 (6.11) を式 (6.9) へ代入して整理すると,

VC = VCC - hFE(VCC - VBE)RL / RB  … (6.12)
となります。

 式 (6.12) の左辺と右辺第二項を移項すると,

hFE(VCC - VBE)RL / RB = VCC - VC  … (6.13)
となり,両辺の逆数をとり,さらに RB について整理すると,
RB = hFERL(VCC - VBE) / (VCC - VC)  … (6.14)
という式が得られ,RB を決定することが可能となります。

実際に数値計算を行います。ここでは,VCC = 12 V,RL = 1 kΩ とします。なおトランジスタのパラメータは,hFE = 180 , VBE = 0.6 V とします。このとき,VC = 6 V となるための RB を求めるために式 (6.14) に各値を代入すると,

RB = 333 × 103 Ω = 333 kΩ

となりました。

6.2.2 シミュレーション

 上記の結果を確かめるために,シミュレーションを行います。


図 6.7 固定バイアス回路(シミュレーション回路図)

 図 6.7 のような回路図を描いてください。コンデンサの値ですが,このシミュレーションではいくらでも構わないのですが,一応 10 nF という設定にしておいてください。

 ここで,「なぜ入力部(コンデンサ Co の入力側)と出力部(コンデンサ Ci の出力側)をグランド(GND)に落とすの?」と思われる方がいるかもしれません。そもそもこの回路は 固定バイアス回路 であり,ここでの測定したいコレクタ電圧 VC は,あくまで入力したバイアス電圧を増幅したものです。そのため,入力信号(交流の小信号)は「なし」とするために入出力部を GND に落としています。

 シミュレーションの解析モードなどは前節と同じですので,6.1.2 節を参照してください。

 シミュレーション結果を図 6.8 に示します。V の値は 6.0383 V となっています。計算値とほぼ同じ値になりました。


図 6.8 固定バイアス回路のシミュレーション結果

6.2.3 シミュレーション(入力信号あり)

 では次に,図 6.5 の回路に対して入力信号を加えた場合のシミュレーションを行います。振幅 0.25 V,周波数 1kHz の入力信号を与え,それが増幅された信号をシミュレーションにより求めてみたいと思います。


図 6.9 入力信号を与えた固定バイアス回路(シミュレーション回路図)

 回路図を図 6.9 のように変更してください。変更点は 万能電圧源 VSRC,抵抗 RZ の追加です。万能電圧源 VSRC は SOURCE ライブラリの中に存在します。TRAN のパラメータを図のように sin(0 0.25V 1KHz 0 0 0) と設定してください。PSpice は単位を無視するので,V や Hz を省略して sin(0 0.25 1k 0 0 0) と入力しても構いません。ただし,スペースは入れるようにしてください。

 抵抗 RZ は,シミュレータで出力電圧の波形を取り出すための抵抗です。そのため回路の動作には関係ありません。この抵抗が存在しない場合,図の黄色のマーカーはグランドに直結された信号線の電位を測定することになるので,0 V を示すことになってしまい,出力の波形が表示されません。

 先ほどと同様にここでも過渡解析を行います。今回は周波数 1kHz の信号を用いるため,シミュレーション時間を 3ms に設定してください。この設定はシミュレーションプロファイルの Run to time という項目に 3ms と入力することで行えます。シミュレーションプロファイルについては 4.3 節を参照してください。

 シミュレーション結果を図 6.10 に示します。赤色が入力波形,黄色が出力波形を表しています。この結果よりきちんと増幅されていることが分かります。黄色の波形のプラス側のピーク値が約 2.6 V,マイナス側が約 2.5 V となっており,入力信号が約 10 倍に増幅されたことが分かります。

 また緑色の波形はコレクタ電圧を表していますが,これは 増幅されたバイアス(直流)+ 増幅された信号(交流) を表しています。前節で増幅された電圧が約 6 V となることが確認されましたが,緑色の波形が 6 V を中心として振幅していることからも前節の結果が確認できます。さらに,緑色と黄色の波形より,コンデンサは直流成分をカットし,増幅された交流信号だけを取り出す働きをすることが分かります。


図 6.10 入力信号を与えた固定バイアス回路のシミュレーション結果




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